旧牛舎を改装してできた家具工房。北欧に憧れた職人がなぜ拠点に鳥取を選んだのか  【Heima・鳥取県米子市】

2023年06月22日

こんにちは。
インテリアコーディネーターの安達剛士です。

前回の記事で奥深い家具修理の世界を教えてくれた、家具職人・渡部洋岳さん
今回はその渡部さんの工房を訪ねます。その中で、私が見つけた「これぞ暮らしを楽しむヒント!」をご紹介します。

工房はもともと牛舎!?

米子市淀江町、静かな住宅街にその工房は構えられました。北欧で買い付けられたビンテージの家具が並ぶ建物は、築40年以上、実はかつて牛舎として使われていた小屋をリノベーションしたものです。

牛舎の名残を感じるお札 

渡部さんは神奈川県横浜市の出身。奥様の出身である米子を拠点に活動していらっしゃいます。

遡ること数十年前、奥様のお祖父様が牛を飼っておられた牛舎は、長年使われることなく、取り壊しも検討されていたそうです。
半年程前、前職の北欧ビンテージ家具ショップを独立した渡部さんは、奥様の地元である米子で工房として使える空き物件を探す中、この建物の存在を知ることとなります。
工房としてのサイズ感や、建物の状態、そして奥様が子どもの頃から慣れ親しんだ環境を遺したいという想いも重なり、ここを新たな出発点とすることに決めました。

ひと続きだった空間を仕切って設けた、家具の研磨スペース

リペアを待つ家具たち 

リペアを行うメインのスペースでは、バラして手直ししたパーツを再度組み立てたり、接着を施すなど、作業の大半が行われます。 

家具1台1台に対し、経験に基づいた技術、場合によっては新しい方法も模索し、それを織り交ぜながら最適なリペア方法を選択する。その工程の中で、経年の味わいは残しながらも、古い家具が次々と蘇っていきます。

そして、階段を昇って2階へ。

そこには、リペアを終えた家具が並ぶのとともに、自身で運営されているオンラインショップへ出品するための撮影スペースも備わっています。
丁寧にリペアを仕上げた家具を一点一点撮影し、その想いも乗せてショップへ商品が並んでいきます。 

「Heima」に込められた意味

アイスランド語で「故郷、家」を意味する言葉「Heima(ヘイマ)」。

子どもの頃に出会った作品『地底旅行』の舞台となったアイスランドは、いつしか渡部さんにとって憧れとなり、遠く想いを馳せる国となっていました。いつか行ってみたい!そんな想いは、やがて新婚旅行先にこの地を選ぶことにつながります。
そして、現地で衝撃を受けたという北欧で見た自然の雄大さ。その記憶と、自分がこれまで辿ってきた本、音楽、いろいろな経験が「北欧」、「アイスランド」と紐づき、この国の言葉を選んだといいます。

また、人それぞれに自分を形成してきた歴史は違う。そして、十人十色の異なる故郷や住まいがある。そんな想いもまたインテリアに載せて皆に届けることができればと、つけられたのがこの名前です。 

北欧家具との出会い

横浜でアパレルショップ、写真店を経て、20代後半で家具製作の訓練校へと進んだ渡部さん。憧れのあった北欧で働く方法を模索する中で、北欧を代表するイメージの一つ「家具」を作る職人という選択肢を見つけたのがきっかけでした。
そして訓練校を卒業するにあたって目に留まったのが、米子に拠点を置くインテリアショップ「グリニッチ」での、家具製造の求人募集。ただ、米子は渡部さんにとって全く縁もゆかりもない場所でした。

もともと幼い頃から引っ越しの多かった環境もあって、地方で働くことに抵抗は少なく、それよりも「やりたいことを仕事にする」ということを優先した渡部さん。
米子で数年、無垢家具製作の技術を磨いた後、次なるステップとして、より北欧家具のリペアに特化した経験を積むため、長野県に拠点を置く「ハルタ」へと旅立ちます。そして、そのハルタでの約6年に渡る経験を通して大きく変わったのが、米子への想いだったそうです。

渡部さんが見る米子の魅力とは

ーもともと米子にはどんな印象を持っていましたか?

渡部さん:
10年程前、横浜から米子に来たときはカルチャーショックを受け、正直なところ田舎に物足りなさを感じていました。でも、ハルタでの経験を通して、「田舎のよさ」や「田舎だからこそできること」へ気づくことができました。そして年月を重ねる中で米子へのイメージも変わってきました。

ー1度離れて気づいた米子の魅力とは、どんなことだったのでしょうか?

渡部さん:
米子には、地元の人にとっては当たり前となっているけれど、県外からも注目されるような評価の高い施設や建築があり、受け継がれています。その一方で、Uターンの方やIターンで移住された方々による、面白い取り組みをしているお店も多いと感じているんです。そんなところに魅力を感じています。

ー米子への意識の変化は、どのようにして生まれたのでしょうか?

渡部さん:
ハルタの当時の代表が、場所に縛られることなく、国内外問わずやりたいことに突き進む人でした。そんな姿を見て、「場所は関係ない。どこにいてもやりたいことはできる。」という意識に変わっていきました。すると、米子の良さが見えるようになってきて、米子で好きな仕事を突き詰めるイメージが湧いてきました。そこには、コロナ禍を通して都会でなくても仕事をできる環境が整ってきたことや、インターネットを通して世界が繋がっていることを日々実感できていることも大きいです。

Heimaの進む道に見える"暮らしのヒント"

現在、「Heima」では北欧ビンテージ家具のみの取り扱いですが、本当にやりたいことはその先にあるといいます。そこにあるのは、家具だけに限らず、また北欧だけに限らず、"コンセプトショップ"として「自分と同じようにものづくりをしている職人さんや作家さんの作品を扱い、発信したい」という想い。それは、場所に関係なく「どこにいてもできること」であり、市場の未成熟な田舎だからこそさらに意義をもつといえます。 

私が今回の取材を通して見つけた"暮らしを楽しむヒント"は、まずは今置かれている環境を少し広い視点で見つめてみること。そして、自分の好きと向き合うことです。

でも、「あなたの好きなことって何?」って聞かれたら、急には答えが見つからなかったりするものです。そんなとき、渡部さんのように過去の経験を遡ってみると、そこにヒントがあったりするのかもしれませんね。実際に暮らしをつくるのは「もの」ですが、そこにまつわる思い出や愛着は、もっと深い付加価値をもたらしてくれます。日々の暮らしにはそんなヒントも隠れているのです。

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